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第7回損保ジャパン記念財団賞 受賞文献要旨

[著書部門]  『フランス「福祉国家」体制の形成』

松山大学法学部 法学博士 教授 廣澤孝之

 本書は、フランスにおける「福祉国家」形成に関する歴史的展開過程を検討することによって、フランス福祉国家の構造的特性の一断面を解明しようとするものである。

 本書は、序、第1章から第5章までの本論および結論で構成されている。序においては、イギリスおよびスウェーデンの「福祉国家」を典型例とする従来の福祉国家発展史像では解明できない諸問題の所在を示し、フランス福祉国家史研究の意義を明らかにする。

 第1章では、フランスにおける福祉国家史研究の諸課題を取り上げる。現行フランス社会保障システムを概観し、フランス福祉国家が、労使の代表を中心とする各級金庫理事会による社会保障制度の自律的運営の原則など非「国家主義」的特性を持っていることを示し、この非「国家主義」的特性の形成過程をフランスにおける共和政の統合原理をめぐる議論と結びつけて考察することがフランス福祉国家史研究の最大の課題であることを示す。
 

 第2章では、第二帝政期から第三共和政初期のフランスにおいて「社会問題」が議論された文脈を辿り、それがフランス福祉国家を支える各種社会保障制度の制度原理にどのような影響を与えたのかを考察する。具体的にはルヌヴィエなど第二帝政期の共和思想やル・プレー学派の社会改革案、さらに第三共和政期の社会連帯主義などを検討し、「社会問題」への取り組みをめぐる原理的考察と政策論争のなかで、国家から相対的な自律性をもつ「社会的領域」に相当する機関の位置づけが大きな論点であったことに着目する。
 

 第3章では、第三共和政期の各種社会立法をめぐる議論を中心に、フランスにおける「社会保障」概念の展開過程について考察する。1898年「労災補償法」や1928-30年「社会保険法」など第三共和政期の諸社会立法過程を通じて、フランスにおける「社会保障」概念が「社会的連帯」の概念を媒介に、「社会問題」への積極的取り組みを目指した「急進的改革派」の主導のもとに政治社会に次第に定着しつつも、議会内外の激しい抵抗のなかで、既存の相互扶助的な共済組合組織を包含する制度原理として成立したことを解明する。
 

 第4章では、本格的な福祉国家体制の形成をめざした第二次世界大戦後の社会保障制度改革について考察する。一般化・単一金庫・自律性の三原則に立ってフランス社会保障制度の抜本的改革を志向したラロックプランが、社会保障「組織法」として原理的には成立しながらも、第四共和政成立直後の政治状況のなかで、一般制度から切り離された特別制度の容認など第三共和政期の共済組合原則との接合によって「社会的民主主義」に基づくゆるやかな社会変革としての社会保障制度改革の意義を失っていく過程を解明する。
 

 第5章では、1967-68 年のド・ゴール政権下の社会保障改革や近年のジュペ・プランに基づく制度改革などを取り上げ、フランスにおける福祉国家再編の方向性について考察する。植民地の喪失と経済成長による特別制度の財政破綻、EU統合を契機とする国際的政策協調の進展、さらに近年では新しい社会的危機の深刻化など、多くの課題を抱えたフランス福祉国家体制が、さまざまな制度改革を繰り返しながらも、社会保険制度の非「国家主義」的運営の原則のなかで拡大してきた「保険的福祉国家」の構造的な危機を容易には克服し得ない状況を、具体的な政策論争のなかで示している。


結論では、これまでの議論を整理し、「福祉国家」論がフランスの国民統合において果たしてきた両義的役割などフランス政治社会における福祉国家の位置づけについて考察し、フランス福祉国家史研究の今日的意義に言及している。
 

最後に、今回の受賞にあたり、ご指導いただいた先生方・関係者の方々に対して心からお礼の言葉を申しあげるとともに、今後も努力を続けていくことにしたい。