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第12回損保ジャパン記念財団賞 受賞文献要旨

[著書部門]  『社会福祉の利用者と人権−利用関係の多様化と権利保障』

東洋大学社会学部社会福祉学科 教授 社会福祉学博士

(本書のねらい)
 福祉サービスをめぐって、個人と社会と国家(行政)が、どのような関係にあるのか、あるいは、あるべきなのか。この問題は、社会福祉の制度設計を検討する場合に、時代や社会を超えて常に考えておかねばならない重要な事柄であろう。とりわけ、人権の観点からこうした問題を捉えようとする場合には、そうである。そういう文脈から見たとき、今日の日本の社会福祉制度の大きな特徴の1つとして挙げることができると思われるのが、福祉サービスにおける利用関係の有りようがきわめて多様なものとなってきているという点である。
 本書がねらいとしていることは、こうした利用関係の多様化(利用者像の多様化)という状況のなかで、社会福祉における権利や人権を論じていくうえで重要となる論点を提示し、それらの論点に含意されている多様な要素を捉えることのできる権利論、人権論の理論的フレームワークを探求することにある。


(構成)
 本書は、第1章から第4章までの第一部(「利用関係の多様化」)と第5章から第8章までの第二部(「人権理論の再構築」)の2つの部分から構成されている。
 まず、第1章「福祉サービスの利用者像」では、利用関係についてのタイプごとの個別の考察に入るための前提として、ル・グランの「騎士と悪漢」の議論を援用しながら、利用関係や利用者像が多様化してきた背景と、多様化した利用関係を論じていくための枠組みについて検討を加えている。それを踏まえて、第2章「福祉サービスと契約」では、契約化ないし消費者主義という動向の中で登場した、消費者としての福祉サービスの利用者像について論じている。つづいて第3章「保護を必要とする利用者」では、いわゆるバルネラブルな人びととのかかわりで「支援された自律」ということを考える際に、どのようなことが課題として浮上してくるのか、それらの課題にどのように対応すべきかが取り扱われている。さらに第4章「自立を求められる利用者」では、公的扶助の受給者に自立のためのプログラムに参加するなどの義務を課す場合、そうした義務づけが正当化されるためにはどのような条件が求められるかを論じている。
 以上の第1部で課題としたことが、福祉サービスの利用関係の多様化ということにかかわらせて、モチベーションと主体性の問題を多元的な視点から整理する作業であったとするなら、続く第2部の課題は、そうした作業から得られた知見とかかわらせながら、福祉に関する人権や権利の実質化・具体化を制度としていかに図っていくかということである。
 まず第5章「利用者像の多様化と福祉の権利」では、利用関係の多様化を受けて、現在、福祉に関する多様な評価の視点が求められるようになってきたのだが、そうした要請を人権理論としてどのように受けとめていくかが論じられている。第6章「福祉と人権理論の再構築」では、福祉の評価を多様な視点から可能にする権利論を、制度の次元で論じていくために必要となる条件と、そうした条件をクリアしていくうえで有用となるアプローチとして「緩やかな制度化」という考え方を提示した。この第6章は、いわば権利の制度化の「仕方」を問題にしているわけだが、制度化する権利の中身あるいは内容について論じようとしたのが第7章「人権と基本的ニーズ」である。この章では人間としての基本的ニーズの問題などが取りあげられている。最後の第8章「利用関係の多様化と人権理論の論点」は、第1章から第7章までに論じてきたなかで浮上してきた主要な論点を、人権理論を軸にしてあらためて全体的な文脈の中で位置づけなおした内容となっている。